現状は、鹿を「有害獣として撃ってください」というお願いがあって、そのほとんどが埋没されている。(目黒)

目黒あと、今もうひとつ注目しているのが、鹿。今、石巻の牡鹿半島には鹿がたくさん生息しているんです。5月くらいの新緑の季節になると、鹿たちは若葉を全部食べちゃうんですね。そうすると木が育たず、はげ山になっちゃうので、三陸の養殖ができるところに流れてくるミネラルが圧倒的に減って、豊かな漁場として残らない可能性が出てくる。
僕らは先人の恩恵で、豊かな環境のなかで生かさせてもらっているので、それを絶やすのではなく、「循環」させることに、今一生懸命トライしているんです。その取り組みのひとつとして、鹿の解体処理場を立ち上げようとしています。

-解体処理された鹿は、どうするんですか?

目黒全国に向けて、食肉として発信していこうっていうのが、まず第一です。第二段階は、皮や骨など、余ったところを加工して販売していこうということですね。
現状は、「年間1000頭処理してください」とか「有害獣として撃ってください」というお願いが行政から猟友会にあって、そのほとんどが埋められている。でも、尊い命を、単に数を精査していくわけでなく、本当に美味しいんだから、ちゃんと食材として活用したり、クラフト製品として再生したりしながら、無駄に命を絶つのではなく循環させていくべきだと思うんです。

松本:石巻のハンターさんが獲った鹿が、今までの料理人人生のなかで一番と思うぐらい、本当に美味しいんですよ。

人間力というものが、もう1回見つめ直されるべきタイミングなのかなって思う。(松本)

-目黒さんは「料理人は、料理を作ることだけが仕事ではなく、正しい食を伝えることが大事」と、以前インタビューでおっしゃっていましたが、松本さんや今村さんにもそういう意識がありますか?

松本:僕はもっと、食べる方に、人に語れるような食の楽しみ方をしてもらえればいいなって思うんです。たとえば、鹿のハンターさん自身がキッチンで調理して、お客様に持っていって、「この鹿はね……」って言っているようにストーリーが伝わるお皿を作りたい。その食事の背景にある大変さとか、生産者がなにに喜びとプライドを持って食材を作っているのかというところを、お客様に伝えられるようなことをやっていきたいんです。
それに加えて、「命をいただくということには最低限のルールがあって、それを守っていかなければ、命のバトンタッチをしてはいけないんだよ」ということも伝えていきたい。そういうメッセージを、料理のお皿のなかで表現できるような料理人になりたいなと思いますね。

-去年のプレイベントで食事をいただいているときも考えていたんですけど、東京で忙しくせわしなく生きていると、食事も……。

目黒簡素になってきますよね。

-そうなんです。パッと食べられるファストフードとかコンビニで済ませちゃうことが多い。

目黒僕もたまに行きますよ。でも、心は満たされないですよね。どんどん荒んでいきますよ。

-そう、心の余裕がなくなるということにも繋がるんだろうなと思って。

松本:そうですね。忙しいなかだと仕方がないと思いますし、パッと食べられる食事も、日本の食事文化のなかで成立しているものだとは思います。ただ、それが続いてしまうと、どんどんと自分自身の荒みみたいなものが見えてくる。どこかで、落ち着いて「いただきます」から始まって「ごちそうさまでした」で終わるような食事ができたほうがいいですよね。

-一人ひとりの生き方や心の持ち方、人間力において、「食事」というのは、日々の「循環」の大事な役目を担っているというか。

松本:そうだと思います。結局、日本だけではなく、世界がそうなんですけど、「人間力」がなんでも作ってきたわけじゃないですか。今の便利な社会もそう。
でも、ここからまた、人間の力で変えていかなきゃいけないものが結構あると思う。人間力というものが、もう1回見つめ直されるべきタイミングなのかなって思うんです。たとえば、日本で年間に廃棄されている食材の量が1900万トンって、想像できないですよね。

-1900万トン……。

松本:でも、それも人間力で変えていける。それこそ僕らみたいな料理人が、大きなことではなくても、自分でできることを精一杯やって、それぞれで広がっていけば、結果的に大きなものになっていくと思うんですよ。

今村:石巻の人のいいところは、去年のプレイベントでも、「ちょっと手伝ってくれない?」って声をかけたら、20人くらいとうもろこしを剥くのを手伝いに来てくれたり、お皿を洗ってくれたりするんです。みんな、誰かがなにかを達成したいんだって言ったら、見返りを求めずに、すぐ来てくれるんですよ。
それはやっぱり、震災や津波が起きたことで、偉い人もお金持ちも1回リセットされたし、お互い助け合って生きていかなければっていうことを、みんなが経験しているからだと思う。

—それこそ、都心部などで忙しなく、合理性を追求して生きている人たちから削ぎ落とされてしまっている「人間力」かもしれませんね。

目黒『RAF』自体、「育む」ということがコンテンツについていて、その本領が発揮されるのは、今年の本祭に繋がっていってこそだと思います。本祭では、地元のお母さんと食堂をやったり、荻浜のビーチでレストランをやったり、いろんなコンテンツが派生していく予定です。
あと、ワークショップもやろうとしています。どういう感じでやるかはまだ決まっていないけど、小野寺(望)さんというハンターさんがすごく面白い人なので、その人と歩くだけでもワークショップになると思いますね。

今村:楽しそうですよね。芸術祭は僕も好きで、各地に行ったりしているんですけど、結局、食べたり飲んだりするところは自分で調べていかなきゃいけないじゃないですか。それでいろいろまわるのも面白いですけど、芸術祭のなかにレストランがあって、そこに地元や東京の名だたるシェフたちが来ていて、さらに音楽が聴けるなんて……最高ですよね。