石巻に入ってから、生産者の顔の見えるところで料理を作ったり勉強したいという思いに変わったんです。(今村)

—そもそも、松本さんも今村さんも、東北出身ではないですよね? 今、石巻を拠点に活動している理由をお伺いしてもいいですか?

今村:自分は、千葉の松戸が出身で、震災後にボランティアで石巻に来たのがきっかけです。2011年の5月頭にきて、本当は2週間ぐらいだけの予定だったんですけど。5月って、まだみんな体育館にいるような状況で……帰れなかったんですよね。
千葉とかはもう生活できるようになっていたんですけど、同じ日本で、こっちの人はこんなことになっているのかって思っちゃうと……千葉で就職も決まってたけど、就職はいつでもできるしと思って、辞めました。それで結局、2年間ボランティア活動をしていたんです。

-当時石巻に来たのは、料理をメインにしたボランティアが目的だったんですか?

今村:いや、そうではないですね。当時、男性は全員スコップを持って泥かきをやっているような状況だったので。2011年の夏過ぎから、電気工事士や、解体屋、塗装屋とかと「店舗再生班」を組んで、「お店を再開したい」という人たちの店舗の再生をお手伝いするようになりました。
そうしていくうちに、こっちの酒屋さん、肉屋さん、魚屋さん、さらに漁師さんや農家さんと繋がっていって。こういう生産者の顔の見えるところで、僕は料理を作ったり勉強したいっていう思いにどんどんと変わっていったんです。それで最後に、一緒にやってきた店舗再生班に自分からお願いして、自分の店を作ってもらいました。だからここは、想いのこもったお店だし、潰すわけにはいかないんです。

今村の店「四季彩食 いまむら」にて

—松本さんは、いかがですか?

松本:僕は、茨城出身で、石巻に入ったのは震災から2年後です。当時、東京のイタリア料理屋を辞めて、ファミレスのメニュー開発のお仕事をやっていたんですけど、石巻の水産加工会社の立ち上げを手伝ってくれないかと話をもらったのがきっかけで。
こっちに時々来るようになって、漁師さんや農家さんや仲卸さんと会うきっかけがあったり、市場を見せてもらったりしているうちに、東京で働いていたときに思っていた「生産者さんともっと近くで飲食店をできないかな」という気持ちがまた自分のなかに出てきたんです。それで、「こっちで飲食店をやればいいんじゃないかな」と。東京って、便利だからこそできないことがあるじゃないですか。


-そうですね、たくさんあると思います。

松本:たとえば、農家さんと知り合うきっかけがあっても、なかなか頻繁に会いに行けなかったりする。しかも東京には、石巻の食材って、「三陸産」で入ってくることが多いんですよね。たとえば築地とかに仕入れに行っても、「石巻産」と札に書いてあることはあんまりなくて。でも実は、博多明太子の原料のタラコは、7割が石巻産のタラのタラコだったり、アナゴも水揚げ量は日本で常に3位までには入っていたりするんですよ。

特産が特産としてあるというのは、それをあえて作為的に作ってしまっているということ。(目黒)

-たしかに、「石巻の名産物ってなに?」と聞かれても、正直あまりパッと思い浮かばないです。

松本:僕もお店を始めるにあたって、「石巻といえばこれだ!」って、外から来た人に見せられるものはなんだろう? って結構考えたし、いろいろ探したんですよ。でも、なくて。逆に言うと、石巻だけで、魚は200種類以上あがるし、宮城県と括ればお米もある。

今村:メインのものが決められないぐらい獲れすぎるんですよね、石巻は。

松本:そう。でも、それでいいんじゃないかと思ったんですよ。つまり、「石巻に行けばなんか美味いもんが食べられる!」っていう方向性でいい。スペインのサン・セバスチャンのバル街みたいに、お店をはしごしてもらえる街になればいいですよね。食材の資源はいっぱいあるわけだから。世界中から石巻に、食の街として食べに来てくれればいいなって。

今村:それは本当、まったくその通りだと思います。それは、自分たち世代がやっていって、若い子たちがさらに活性化させていってくれればいいですよね。

目黒「特産」って、街単位で作っていくものなんですよ。つまり、特産が特産としてあるというのは、それをあえて作為的に作ってしまっているということ。東北の人たちって、基本的に、自分たちから発信するのが苦手なんですよね。だから、「東北産」というものをあまり聞かないんです。でも、そういう場所だからこそ、面白味とか、変わらないものがたくさん残っている。

-そもそもなぜ、海のものも、お米も、肉類も野菜も、美味しく育つことができるんですか?

目黒三陸は、暖流と寒流がぶつかる場所だったり、わりと温暖な場所だったりして、気候的な面で恵まれている条件だというのはありますね。それは海だけではなくて、山とかの資源もそうだと思うんですよね。

松本:そこも「循環」的なところですよね。海がいいということは、そこに降る雨がよくて、大地がよくて、流れてくる川がよくて、海がいいっていう流れなんだと思います。

今村:海藻とか、養殖が盛んなのも、ミネラルのおかげですよね。万石浦なんて、世界の種ガキの8割くらいはルーツが万石浦だと言われていますから。