「『鍼』としてのアート、『マッサージ』としてのアート。アートの持つ役割とは?」

中沢:「アート」っていうのはもともと思想ですからね。僕はこの言葉を、すごく広くとらえているんです。経済システムとか全部を含めて、アートな構造を持ったものっていうものがあり得るというのが根本的な考え方。じゃあ何を「アート」っていうのかっていうと「可能なもの」「可能的なもの」を組み込んだ現実的なものを僕は「アート」だと思う。経済原理は、現実的な物や力を利用して、現実化した世界を動かしていく、それを成長させることが大前提になる。しかしこの世界には、まだそのシステムの中に組み込まれていない、現実の中に現れていない「可能なもの」が存在している。その「可能的なもの」を組み込んだ作品、あるいはシステム、情報システム、それが「アート」だと思っています。「アート」は常にどこでも必要だと思うんです。


浩一:そうですね。

中沢:311があって、このままの方向で世界を進行させていくのとは違う流れが、いっきに見えてきました。その時見えたものに、フタしちゃうんじゃなくて、これから先に生きられる現実的なものにつくり変えさせていくことをしたいと切に思いました。音楽は魔術的な力を持っていて、人間の心の原始的な部分に食い込んでいく力を持っている強力なメディアですし、それとファインアートが組み合わされ、そこに地域のシステムが巻き込まれていく。そんなものを現時点で作る、そんな馬鹿なこと考えるのは僕らの世代しかいないんじゃないかな。小林さんもそんな馬鹿なこと考えてるみたいだから大変共感したわけです(笑)。

小林:(笑)。311以降、次のスタンスとしてはそういうことだったんじゃないかなんていうふうに、僕は思ってました。

浩一:最初は「被災地で芸術祭って、それ無理じゃない?」っていうのが第一印象でした。だって僕にとってのアートって、結構、厳しいものだったりするので。厳しいところに厳しいものを持っていくと辛いなと感じました。ただやはり、僕にとってのアートっていうのは、美学だけじゃなくて、ヨーゼフ・ボイスとか、シュタイナーみたいな、「生きること」がアートになってる人たちの系譜からスタートしています。震災後、本当にこのようなアートが機能するかどうかっていうことに挑戦してみるのは、かなりのチャレンジだなって。さらに今回の芸術祭って、いくつものレイヤーがある。そこがすごく面白いなって思ってるんです。

中沢:そう、いろんなレイヤーがあるから面白いんですよ。

恵津子:外国に住んでる僕たちが被災地に行って何が出来るの? って聞く人もいるんです。僕に言えることはないよ、僕に出来ることはないよっていう人もいる。


中沢:アーティストたちも、現代アーティストとしてのルーティンに、なんとなく飽きてるんじゃないでしょうか。そんな感じを持ちます。どこかの美術館でやりますからって海外から招きが来て、下見に行って、作品つくって、オープニングやって、数日滞在して帰ってくる。海外で展覧会をたくさんやったかどうかが自分たちの実績になって、値段が上がっていく。こういうルーティンが出来上がっていて、それでいいのかと思う僕です。

恵津子:今回はそうじゃないアーティストばかりを最終的に選んでいて。特に、今、視察に来ているアーティストたちは、「もしかしたら間違ってるかもしれないけど、とにかくやってみようよ」と言ってくれている。「何か起きるかもしれないから」って。そういうふうに言ってくれると、「なんか新しいアートが見られるかもしれないな」と期待がふくらみます。

浩一:今回の芸術祭では、ビジュアルアートだけじゃなくて中沢さんみたいに学術的なところだとか、民俗学的なところもあるし、フードもあるし。


小林:そうですね。

中沢:ポップミュージックがあるっていうのは、僕、すごくいいと思ってるの。日本で今、いろんなところで行われている芸術祭と、だいぶ違うものになってくるよね。

小林:そうですね。


中沢:批判も浴びるだろうな。出来が悪いって言われる可能性もある(笑)。それでもいいじゃない、って思います。僕らが作ろうとしてるのはそういうもんじゃないんだから。僕は「アート」って言葉をものすごく拡大したいと思っていて、それで「Reborn-Art」って言葉をつくりました。「アート」は語源でいうと「Ars(アルス)」「生き方」で、生き方の中に「可能的なもの」を組み込んだものが、いわゆる「アート」として意味を持つものだと思ってます。

浩一:僕が今回の話をうかがった時に実は「絶対にうまくいかない」って思っていたんです。美術の中でワタリウムは癖が強いテイストだし、中沢さんも結構個性が強いし、小林さんもどっちかっていうとストロングなキャラクターを持ってらっしゃるじゃない。こんなのうまくいくわけないよ、って(笑)。キャラクター的にうまくいくわけないじゃんって思ったんですけど、それが回を重ねるごとにだんだん面白くなってきて。毎回違うアイデアが出るし。みんな見てる部分が違っていて、異なる意見が入ってくるので、コンテンツとしては非常にリッチなものが出来てるんじゃないかなって思ってます。

小林:かなり関心持ってもらってる感じはしますね。今回、「Reborn-Art Festival=音楽祭でしょ」みたいに終わらせたくないっていうのがあるから。でも今回のプレイベントがその体をなす部分が多いから、そこは注意して、と思ってるけど、僕の注意を超えて、どこのメディアでも来年のことっていうのにすごく注目してくれてますね。

浩一:最初の頃の会議に現代アートのアーティストを一人連れていったことがあるんですよね。彼が「マッサージがいいのか、鍼がいいのか」って言った時に、どっちかっていうと僕らは「鍼」の方をより見せなくてはと考えていました。刺激的で少し驚いてしまうアートと、すごくゆっくりしたもの、その両方がないと。やはり2、3針の鍼と日々のマッサージでやっと人間の体がより元気になっていくように、地域も同じようにと願っています。

中沢:アートって、リラックスマッサージみたいな、癒し機能みたいなものだけじゃないですから。まだこの世界に現れてない「可能的なもの」を現実世界に組み込むわけだから、それは過激なものも含むことになるだろうと思います。


恵津子:実はお二人に「アートは美術館的なところに展示されるしっかりした作品でないといけない」という感覚がなかったところがすごく良かったと思うんです。日本ではどうしても、そっちの方が偉いというところがあるから。

浩一:でも実際に、ここにはホワイトキューブは全くないんだから(笑)。

小林:そうなんですよね。そのかわり牡鹿半島の自然の中や、街なかに作品が出現することになりますね。