2017年開催の『Reborn-Art Festival』プレイベントとして行われる、今夏の『Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016』。『ap bank fes』を踏襲しながら、来年に繋げるための様々な試みがプラスされる本イベントの楽しみ方、会場づくり、プログラムづくりなどについて語ります。

「何もないところから『場』を作り上げていくということ」

小林:まず、今夏行われる『Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016』について話していきたいんだけれど、4年間休催している「ap bank fes」に、全く新しい「Reborn-Art Festival」が加わるというか、文字通り「×(かけ)」て化学反応を起こしていきたいということで、ある段階で僕から森くんに「一緒にやっていってくれないか?」と頼んだんだよね。今までとどう違うのかってことに興味持ってくれている人もいると思うので、森くんが思う「このフェスのあり方」というか、どこを踏襲していて、どこがどう違うのか、みたいなことを話してもらえるかな。

:僕が以前やっていたレストランに何度か小林さんが来てくれていて、その時に、「Reborn-Art Festival」の話をうかがったんですよね。その内容と自分が考えていた構想がとても近いなと思ったんです。このイベントに関わることで、自分の構想も具現化していくんじゃないかとも思ったし、向いている方向が同じなので、僕にとってもすごくありがたい話だと感じました。

小林:そうだね。「現代アート」とか「漁業」とか、今までにない、さまざまな要素が入ってくるよね。


:会場も、今までは国営公園だったりつま恋だったりと、山や木などの自然があり、すでに公園として成立しているところを、どうやってap bankらしくコラボレーションしようかという会場の使い方だったんですけど、今回の会場となる雲雀野地区は、本当になにもない平らな砂利敷きで、牡鹿半島が見えるあの場所に、どういう会場をつくっていくのかというところで、今まで音楽フェスの仕事をしてきた人ではない、建築家の藤原さんが関わってきてくれて。フェスのロジックや経験値ではない目線からの会場づくりになるので、すごく楽しみだなと思います。他にも漁師さんや地元の方々、アートのアーティストたちなど、いろんなベクトルを持った人たちが混ざり合ってくる。3日間のイベントということだけでなく、翌年の東北エリアをつかった総合祭『Reborn-Art Festival』のプレイベントなので、そこに対して僕らがどういう役割をもらたせるのか、今までの ap bank fes のいろいろなアプローチに共感や納得してファンでいてくれている人たちに「こういうやり方もあるんだ」「こういう見方をするともっと面白いんだな」ということをどう伝えていけるのかを、一緒に考えて作っていけたらと思っています。


小林:今回の取り組みとしては、ウッドチップのこともあるね。地面が砂利なのでどうしようかと藤原くんと話してる中で、今回の会場となるところに工場がある日本製紙さんが今、工事してるのがバイオマス発電設備なんですよね。バイオマス発電設備ではウッドチップを燃やして発電させるんだけど、そこで使うウッドチップを会場に敷き詰めさせてもらってね。これも循環ですよね。

藤原:循環ですね。石巻の日本製紙の工場は日本で一番大きい製紙工場のラインらしいんですけれど。そこにバイオマスの発電設備があってエネルギーとしてもウッドチップを循環しようとしています。つまり、木を紙をつくる資源としてだけじゃなくて、エネルギーとしても考えようとしていて。工場の中に砂丘のようにウッドチップが積み上がっていて大変驚きました。


:砂丘みたいですよね、僕も見ました。

藤原:それをお借りして、一部敷き詰めて、雲雀野地区にちょっと柔らかい地面みたいなものを作りたいなと。ウッドチップを敷くだけで、クッション性とか輻射熱とか違ってくるので、ちょっと環境が穏やかになるかなって期待しているところがあります。

小林:まあ、いずれにしても、ライブをする場所として、快適性という意味では、どう考えても優れている場所ではないですよね。振り返ってみると僕らもこの場所に出会って「すごいな」と思いつつ、いろいろと悩みました。震災から5年経ったとはいえ、今でもいろんな思いを抱えている人がたくさんいらっしゃるし。だから、僕らなりにたくさんの人に意見を求めたけど、むしろ海の風景を踏まえて始まろうとすることが、決して悪くないという意見をいただきました。それもあって、僕は逆に何もない工場用地で、海だけがあるっていうのは『Reborn-Art Festival』のスタートとしては象徴的なポイントになりえるんじゃないかと思った。そして、これは来年以降のプロトタイプみたいなものにもなると思うんですよね。

藤原:雲雀野地区は港湾の埋め立て地ということで、フェスの会場としての不安もあるということでした。小林さんも「一回見て欲しい」というので最初に見にいったんです。僕が今回のプレイベントの話を聞いて最初に重要だと思ったのは「復興力」というようなキーワードでした。これから根が生えて草が生えて、みんなの活動が育っていく反発力のようなものが表現されるんだろうなとぼんやり思っていました。なので、草が生えてくるイメージが持てるのかが重要だなと思ったんですけど、行ったらすぐ目の前にドーンと牡鹿半島が見えて、海もすごく近くに感じられて、日本製紙の工場からもくもくと湯気のようなものが出ていて、文字通りにエネルギー人間の力というものを感じました。

小林:土台として、確かに「力」を思わせるところはあるかもしれないね。


藤原:ありますね。あと、石巻の人たちに色々話を聞いてみると、今回、津波がきて、海が怒ったというような表現をしている方もいて、海に対して負のイメージが拭い去れないような雰囲気もあるけれど、でもしかし、やっぱり海と共に生きてきた場所だということは皆さん色々な表現で語ってくれる。石巻、牡鹿半島の人にとって、海際っていうのはすごく大事なんだと思います。

:今までの ap bank fes は、そこにある自然といかに寄り添うかみたいな方向だったと思うんですけれど、今回はどちらかというと、敢えて人工的というか人為的というか、何もないところから作り上げていくことになりますよね。何もない荒野のようなところから、そこにどういう空間をつくれるのか、そして今おっしゃっていた「復興力」というか「作り上げていく力」みたいなことをどう発信できるのかということが求められるんだろうなと思いますね。

藤原:あと、映画『スワロウテイル』の、「円都(イエンタウン)」につながるようなイメージも雲雀野地区に行って感じました。場所を人間がつくっていくっていう感じ。そういう象徴的な場所になるのかなと考えています。今回、何万人も人が集まることがきっかけになって、村のような状況ができる。音楽が人を呼んで、それによって循環していくっていうことが、今回のプレイベントから本祭に向かっていくプロセスで実際の風景として表現できるかもしれないという期待感はあります。

小林:これ自体が一つの作品みたいなところもあるので、エッジが立っているこの場所でやることに、僕は納得がいってるんだけど、同時に森の中でやるよりは風の影響を受けやすいし、もちろん災害に対しての避難も考えていかなくちゃいけないということはあります。もちろん千年に一度の災害ということで考えると、そういうことが起こる確率は低いんだけど、でもそれでもそれが起こった時の避難っていうのはちゃんと考えて。東北大学災害科学国際研究所の佐藤翔輔先生にご相談しながら、歴史上一番被害の大きかった東日本大震災を想定して、どのぐらいの時間で安全なところ(津波避難目標地点)にいけるかっていうことで割り出していくと、今回のキャパシティがだいたいマックスだっていうことになるんですよね。


藤原:役所や警察の方からも「どんなに確率が低くても、万が一に災害が起きることを想定し、その状況に合わせた津波避難計画を」ということで話し合っています。地震が起きてからできる限り早く安全確認・誘導体制を整え、混乱のないよう来場者を冷静かつ迅速に避難誘導してその後、誘導スタッフも安全なところに避難する、ということで計画を組んでいっています。あるいは、もっと起こり得る自然の影響としては「熱」や「風」っていうことがあって。そうした部分について丁寧に詰めていっています。

:野外フェスとかスタジアムライブなどやってるイベンターさんも含めて、音楽業界全体でも全国的にそこの意識はより強まってると思いますし、ことさら今回関わるジーアイピーさんは東北のイベンターさんなので、ここの場所でやるってことも含めて、想いも含めてちゃんとやらなきゃって気持ちはより強まってると思うんですね。関わってる人たち全員において、そこの責任感はすごいと思います。