(他の芸術祭は)舐めているものもあるよね。アートとしての醍醐味にみんな挑戦してないじゃん?(浩一)

—音楽フェスも、芸術祭も、今かなり増えていますよね。そんななかで、新たに立ち上げる『RAF』には、どんなオリジナリティーがありますか?

小林こう言っちゃなんですけど、他の地方の芸術祭って、地域の文化振興や町おこしとかのために、依頼されたり、請け負ってやっているものが多いと思うんですよ。

-行政主導ということですね。

小林でも今回は、行政の方々も一緒に応援してくれてはいるけれど、そもそも「ap bank」を背負っている僕が言い出したところから全部始まっていますから。国や行政のお金ありきで始まったことではない。

恵津子:そこは違いますよね。たしかに、他の芸術祭は市から依頼が来てやっていることが多いです。だから、参加してくれるアーティストの面白さとか希望とか、やりたいことが、他のところとは全然違うんですよね。

浩一:質は手を抜かないで、だけどすごく軽やかに見せる。そういうことがやりたいなと思いますね。

—既存の芸術祭には、重たく、閉じている印象があるということでしょうか?

浩一:だってさ、重そうにやっているくせに、作品がチープなものも多いから。なんていうか……舐めているものもあるよね。「町作りをやればいいでしょ?」っていうスタンスが見えすぎている。それって、アートとしての醍醐味にみんな挑戦してないじゃん?

—辛辣ですね。しかも今、全国中で芸術祭が行われています。

浩一:多すぎるということはネガティブなことではなくて、もっとあって、もっと競争して、残るところが残っていくのがいいんじゃないかと思います。僕たちは、今回インディペンデントで芸術祭をやるなかで、小林さんに選ばれたミュージシャンと、僕らが選んだアーティストたちが混ざり合うわけです。

—どんな基準でアーティストを選んでいったんですか?

浩一:すごく尖がっているアーティストを選んでいますよ。あんまり公的な芸術祭に呼ばれないような作家たちに、自由にやってもらいたくて。だからこそ、音楽と面白い化学反応が起きてくれると、すごくいいなぁと思う。

—名和晃平、パルコキノシタ、Chim↑Pom、JR、ヨーゼフ・ボイスなど、本当に多様な名前が並んでいますね。

浩一:いわゆる美術的な文脈を抑えるためにも、海外の大御所もきっちり集めた上で、日本で公的なところに疎まれそうなギリギリのところでやっている人たちを集めています。「大御所たちの軸があるから、君らは好きにやっていいよ」って、若い連中が自由に好きなことをやれるフィールドは作った。だから、美術家のうるさい連中に対しても、「絶対にできないことを俺らはやっているからね」って言える自負はありますね。

東京は出会いにくい場所になっていると思う。(小林)

—昨年行われたプレイベントでは、Bank BandやMr.Childrenから、ZAZEN BOYSまで、幅広いジャンルのアーティストが集まっていたり、小林さんとギターのSUGIZOさん、フリューゲルホーンのTOKUさんで、インプロビゼーションのような音楽を20分間聴かせる場面などもありました。実際やってみて、いろんなものが融合している会場に集まったお客さんの反応を、どのように感じていましたか?

小林アートの在り方にすごく反応している若い子がたくさんいたし、向井さん(秀徳 / ZAZEN BOYS)のパフォーマンスを、ポカンとしながらも一生懸命聴いているお客さんもいたよね。もちろんアート作品に、「なんだこれ?」っていう感じで触れ合っている若者もいた。今年はさらに、いろんな仕掛けを用意しているから。51日間、毎日どこかで音楽が鳴っているようになりますよ。

—あのプレイベントの化学反応は、他ではなかなか見られない光景でした。地元の行政の方々はどんな反応でしたか?

小林嬉しい反応でしたよ。「5年経った東北で、石巻で、よくやってくれました」って言ってくれて。特に、石巻市だけではなく、宮城県の中心である仙台の方々も、石巻のことを自分事として、県の太平洋側の一番被害が大変だったところで開催したことに対して、「よくやってくださいました。本祭が楽しみです」って言ってくださいました。

—それは嬉しいですね。

小林もうひとつのコンセプトは、「出会う」なんですよ。本当に、東京が出会いにくい場所になっているというのは、若い子たちを見ていてもすごく思う。ネット上、SNS上ではいろんな出会いが起こりやすいんだろうけど、出会いによる化学反応みたいなものが感じにくくなっている。経済の理屈で先が見えてしまう、あるいは見えていないと……。

小林去年、プレイベントをやってつくづく思ったことは、震災から5年経って、あの地域が元に戻っている、なんていうことには程遠いんですよ。巻き戻ってまた同じ状態に戻ったのではなく、ものすごく長い「Pause」ボタンが押された無音状態みたいになっていて。
でも、そこから今、すごく複雑な波動でまたなにかが立ち上がろうとしている。だからこそ、「出会う」ということが起こりやすい場なんだっていうことを感じるようになったんです。

-それは、実際に人に「出会う」ということもそうでしょうし、なにかもっと新しい知恵とか、そういう意味でも、ということですよね。

小林そうですね。この芸術祭のタイトルを一緒に考えてくださった中沢新一さんも、「Reborn-Art」の「Art」はラテン語で「技」という意味があると教えてくださって。「Reborn-Art Festival」は、「(石巻が)再生するための芸術祭」という意味だけでなく、「(僕たちが)新たに生きていく術と出会うための祭り」という意味なんですよ。
それが今、グローバリズムとか経済のために、人間としての感性がちょっと曇ってしまっている、鈍くなっているということに対して、僕たちがここでできることなんじゃないかと思うんだよね。