震災という種の発芽の結果がだんだん出てきたのが2015年頃だった気がします。(ナブチ)

ーそう考えると、その後のキュンチョメ作品はすべてある種のマーキング行為とも言えるように思います。先ほど、震災から時間が経つほどに感覚が変化しているとおっしゃってましたが、それを象徴する作品もあるのでしょうか?

ナブチ:大きく変わったのは、2015年の『ウソをつくった話』かもしれない。僕らがはじめて被災者と一緒に作った作品です。帰還困難区域への道を封鎖しているバリケードの写真を撮ってきて、震災以前はそのなかに住んでいたご老人たちに、Photoshopの画像処理でバリケードを消してもらったんです。パソコンのマウスを触ったこともないおじいちゃんたちに、1から操作方法を教えて。

ホンマ:「消えるー、なんだこれはー!」って、めちゃくちゃテンションが上がってるおじいちゃんもいたよね。

ナブチ:「帰れる帰れる!」って大喜びする人もいれば、「帰れるわけない」「本当は帰りたくない」って言う人もいたね。

ホンマ:そう。震災で補助金をたくさんもらって「今の生活のほうが楽しいんだよね」って人もいた。

ナブチ:自分が住んでいた街なのに、写真を見ても思い出せない人たちが結構いて、「あー時間が経ったんだな」って。

ナブチ:震災から3〜4年が経って、震災という種の発芽の結果がだんだん出てきたのが2015年頃だった気がします。同じ仮設住宅に住んでいても、住人同士で揉め事が起こっていたり、津波や放射能のこととはまた違った、もっとリアルでドロドロしたことから人間関係の問題が生じている。新しい環境に順応しはじめて、震災の経験を本人たちも忘却している部分があったんです。

ホンマ:2013年には、東北楽天ゴールデンイーグルスがリーグ優勝して、「復興おめでとう! 震災はもう終わり!」みたいな空気もあって。東京でも、3〜4年目くらいが、震災のことがスッと終わるタームだったような気もします。

ナブチ:そして、その頃に震災とアートの関係にも変化が見えはじめたんです。2015年は、作品を作るために福島のいろんな地域の復興課に電話をかけまくってたんですよ。「僕たちはアーティストで、ワークショップをやりたんです」って。

ホンマ:ところが、アートって言葉を出すと嫌がられたんです。

ナブチ:「もうそういうのはいらないんだよ」ってことを真剣に言われて。僕らの肌感覚で言うと、2011年から15年の間までにアーティストたちは被災地に行って、地元の人たちとうまく関係を築いているものだと思ったんです。でも、「アート=搾取」としか思ってない人たちも一定数いて。その時期は、僕たちにとっても節目でした。

「7年目、だからようやく言えることがあるんだ」と話す人が驚くくらいに多い。(ホンマ)

—アーティストって、「与える」ことよりも、自分自身が「発見する」「気づく」という経験をすることが、作品を作る動機として大きいとは思うんです。

ホンマ:うん、核ですね。

—なので、キュンチョメにとって、そういう状況を知ったことが、その後の変化につながっているとも思うんですけど、今回の『Reborn-Art Festival』(以下、『RAF』)では、どんな作品を発表するのでしょう? 5月中旬から石巻に滞在して制作を進めていると聞きました。

ホンマ:少なくとも会期終了まで滞在を続けて、3本の映像を作って展示する予定です。ここに住む人たちとコミットしていきながら作る作品。ただ、「一緒に作る」というよりも、「突撃」していって、石巻の群像劇を作り上げていく感じです。矛盾も不条理も全部飲み込んだ群像劇。

ナブチ:かといってドキュメンタリーでもなくて。ある種の共犯関係、高揚感のなかで、正攻法では見つけられなかったものを見つけていくような感じです。そうすると「普通の人」なんて存在し得なくて、それぞれが群像劇の役者のように、なくてはならない存在になってくる。

石巻駅付近、国道398号沿いを歩いていると、こんな細道が……

角を曲がると、キュンチョメの展示会場がある

ホンマ:今回の作品のために、石巻に住んでいる人に20人以上インタビューをしたのですが、誰と話していても大抵震災の話を経由していくんですよ。まるで、石巻の中心に見えない電波塔があって、みんなが意識せずとも常にその電波塔にアクセスしているような。
石巻の中心地はきれいに整地されているので、震災の痕跡ってもうほとんど見えないんです。津波の看板があるくらいで。でも、人と向き合って2時間くらいインタビューしていると、絶対に震災の話につながっていく。「震災」という名の、東京スカイツリーくらいの巨大な透明の塔がそびえているんです。

ナブチ:もちろん塔との交信を遮断している人もいるのですが……。

ホンマ:意外と遮断したがっていない人のほうが多いよね。

ーつまり、震災のことを忘れたくない?

ホンマ:それが今のフェーズの変化だと思います。私たちも含めて、外から来る人は、もうここにいる人たちは震災に疲れていて、話もしたくないし、ハッピーなものを望んでいると予想していますよね。でも実際に聞いてみると、「7年目、だからようやく言えることがあるんだ」という人が驚くくらいに多い。

ナブチ:7年目になって、ようやく出てくるものがある。それを追うことが、おそらく僕たちが今やることだと思うんです。


会場の内部。ここをどう展示場所として使用するかは、開催当日のお楽しみとのこと

ナブチ:7年目で、なにかが噴き出している状況って、蝉が地中から這い出してくる姿に似ている気がするんですよ。だから今回は、今年の蝉たちをモチーフにした作品を制作します。

『空蝉Crush!』(2017年)

ー蝉って、幼虫として地中に何年も暮らしますよね。

ナブチ:アブラゼミは約7年と言われてますけど、震災のときの蝉が、今年ようやく地上に出る時期なんです。それは今、変化しつつあるこの土地とも重なるし、被災地で育っている子どもたちの姿にも重なるし、『RAF』にやって来るお客さんにも重なるかもしれない。

ホンマ:『RAF』で、はじめて被災地を訪ねる人も多いと思うんです。つまり2011年から震災に直接関わっていない、空白の記憶を持つ人たちですよね。彼らは、7年間土のなかに眠っていて、今年はじめてこの街の空を飛ぶ蝉と似ている。それにこの芸術祭は夏の間の開催なので、みんな蝉の声を全身に浴びながら石巻をまわることになる。今年の蝉はまさに、この芸術祭の象徴といっても過言ではないと思う。