「生きがい」みたいなものが被災地に満ちてくるようなイベントに

小林:僕はReborn-Art Festivalの準備でよく石巻に行くんだけど、最初の頃は、すごい勢いで“立ち直ろう”としてることの素晴らしさをボリューム上げて話してる、みたいな感覚があったんだけど、最近感じるのは、さっきも触れたけど、一人ひとりのそれまで繋がってきた歴史とか、家族とか友達とか、街とか記憶とかが「途切れてしまった」んだということ。それも、ものすごい広範囲に渡って途切れているんだっていうことを改めて思うんですよ。それは1年経ったら回復していくってものじゃないし、「途切れてしまった」ことから来る影響は依然としてあるんだけど、5年経った今、一度途切れたところから、もう一度「繋がり」を作っていくということは、大変なことなんだけど、残された僕らに生きることにものすごくある種、繊細さを感じさせてくれることってあるんじゃないかなって思ってるの。当たり前に流れてしまうこととはちょっと違う。



櫻井:前に「心ってどこにあるの?」って子供に聞かれたことがあって、「どこにあるんだろうね、血液かな、脳かな」ってその時は答えたんだけど、それからしばらく考えて。僕なりに自分を納得させる答えとしては、例えば誰かのことをすごく大事に思ったり大事にされたり、そんな出会いがあって、そうすると「こんなことがあった時にあの人だったらなんていうかな、あの人だったらどういう態度をするかな、どんな顔するかな」って想像することで心になるんじゃないかと思ったんですよ。だからたくさんの大切な出会いを多くした人ほど心が豊かになっていくような気もしていて。そういう意味では、すごく心のこもった料理を食べても、アート作品を見ても、音楽でもそうかもしれないけど、それがまた人の心を豊かにするものかもなと思って。だからアートの作品もそうだし、食もそうだし、地元の人たちとアートを見に来た人たちの出会いっていうのも、その出会いがまた人の心を豊かにしていけるものなんじゃないかなと思うんですね。だからすごく希望が持てる。わくわくする感じがあるんですよね。

小林:「出会う」ってことはすごく大切なことだと思うんだよね。今回やろうとしてることは、いろんな人の表現とか思いに出会える場をつくる、ってことなんじゃないかなと思う。都市だと、すごく合理的にいっぱいできそうなんだけど、そこにはスピードとかパターンとかいろいろあるからちょっと違う。今回、被災地でやるっていうことで、やっぱり新しく出会う機会が多いと思うんだよね。

櫻井:『大地の芸術祭』は、今まで芸術のことなんか何にも知らなかったおばちゃんたちが、作品についてすごく勉強して、お客さんと楽しそうに話して触れ合って、喜びとか生きがいに変えてる感じがしてすごくよかった。生きる喜びって前からあるかもしれないけど、なんか生きがいみたいなものが被災地に満ち満ちてくるといいなって。


小林:そうね。そしてお客さんも同じようなものを感じられると思うから。音楽に関しても、すごくがっちりプログラムされたものをやるっていうよりも、ちょっと引き算みたいなふうに考えて、そこで反応してやっていけるようなことがね、新しい音楽とのそういう出会いがあるんじゃないかなとは思ったりはしてる。ある部分、手作り感の強いものなのかもしれないし、もしかしたらすごく実験的なことも、そこの場所だと存在しやすいっていうような、そういうのも出来るといいなって思ってるんですけどね。


櫻井:今までap bank fesをやって、すごく多くのお金が集まったけれど、僕らがイベントで集めた収益とは考えてなくて、みなさんが志をもって支援してくれたものだと思ってるから。ap bank fes休催から時間が経っちゃったことを心苦しく思ってるけど、小林さんもスタッフの方も、時間をかけて、すごく考えてこのプロジェクトを進めていたので。良かれと思って善意でやったことが、実は何年か後にみんな迷惑してたとか、あんなことしてくれなきゃよかったのに、とか、そうならないようにすごく慎重になって考えた結果、これだけ時間がかかっちゃったというか。

小林:この構想を最初に櫻井に話したのは2012年の頭ぐらいだよね。やる限りはちゃんと定着していくものにしたいというのがあったから。これだけ時間が普通にかかっちゃったね。まだまだいろんな方に会っていかなきゃいけないけれど、とりあえずスタートラインに立てるところに来たなという感じだね。

櫻井:相手が「自然」で、そこに絶対的な被害者がいっぱいいる、それを見て「自分は何にもやれてない」って、何もできない自分を責めちゃう人もいっぱいいるんじゃないかと思うんですよ。積極的にボランティアに参加できない人だっていっぱいいると思うんだけど、かといって何も感じてないわけじゃなくて。でもそんな人たちが、音楽が好きで、たまたま好きなミュージシャンがいるから参加したりとか、その街でアートを見ることでそういう心の負い目みたいなものが、少しでも浄化されるといいなって思います。

小林:そうだね、それと今年の夏のプレイベントは、日程的に、石巻の伝統的なお祭りである川開き祭りに繋がっていくように市や地元の人たちとも話してたんだよね。川開き祭りの方から新参者の僕らを誘っていただくことになるし、僕らからしてみたら、川開き祭りの背中を押させてもらうという関係というか循環になると思っています。