取り残されている人たちの感覚って、表現しなくていいのかなっていう思いがあったんです。(卯城)

—Chim↑Pomは、すでに展示する作品を作り始めているんですよね?

卯城:Chim↑Pom史上、一番、なんというか……ミニマルでシリアスな作品になりそうな予感がしていて……「暗い」ではないんだけど。『RAF』自体が「復興」をテーマにしているし、石巻にもすごくたくさんの人が生まれてきていたり、全体的にはポジティブな感じに向かっていると思っているから、下見の時点では前向きな感じでいたんです。
だけど……大川小学校に行ってみたんですよ。そこは、たくさんの子どもが亡くなった場所で、今でも訴訟になっていて。そうしたら、そこは復興でポジティブになっている石巻市街地とはまた全然違って。

岡田:朝8時くらいに行って、日の光も届いているんだけど、そこだけ空気が全然違った。

卯城:去年行ったんですけど、未だに水たまりがいっぱいあって。作品作りで、世界中のヤバいところには結構行ってきたけど、あれほどヤバいのは見たことがないくらいでした。前向きな復興からぽつんと取り残されている感じがあって……学校をぐるりと囲むように小石を積み重ねた結界を誰かが作っていたり、それはきっと遺族の方によるものだと思うのですが、なんというか、時間が凍りついてた。
その感じに引きずられちゃって。ポジティブな復興に向かっているのはいいことだと思うんですけど、そこから取り残されている人たちの感覚って、表現しなくていいのかなっていう思いがあったんです。

-今回の作品は、岡田さんが主導なんですよね?

岡田:そうですね。まだ、実務的なところを進めているだけなんですけど。牡鹿半島のエリアの地中に、作品を埋めます。それを観せるための空間をちゃんと作って。今回は、結構手が込んだものになりそうです。

岡田将孝

卯城:卯城:Chim↑Pomとしては珍しく、多くの人に向けて作るような作品ではない雰囲気になりそうなんだよね。ここでなにを作るかというのは、超迷いの部分です。でも、靖子ちゃんも言ってたみたいに、ここでやる人は、迷わないとおかしくないですか? それを迷わずにできる人は疑わしいって思っちゃう。

「言ってるだけじゃん」っていう感じにしたくないよね。言うだけは簡単なので。(岡田)

—被災地という場所ゆえの迷いを抱えつつも、大森さんとChim↑Pomは音楽やアートを通して、そこでどんな役目を果たしたいと考えていますか?

卯城:福島と石巻は、話が全然違うじゃないですか。福島は、ポリティカルなことが入り込んでくるけど、津波の問題って、全然別次元な話で。震災のあとに、僕たちが福島に作品を作りに行ったのは、やっぱり人為的な影響がそこにあったから。自然が相手だと、成す術なしというか、人の力、アートの力でできることなし、みたいな感じがちょっとあったんです。

だから、なにも軽々しくは言えないんですけど……アーティストが「Reborn」のためになにができるのかと言ったら、本当にいつか「Reborn」と言えるまで、ネガティブなこととポジティブなことの試行錯誤や悩みを繰り返していくことなんだと思う。

もちろん、震災に遭った人たちのなかには、いきなり「陽」という感じでいきたい人たちもたくさんいると思います。でも、そこでアーティストやミュージシャン一人ひとりがなにかをやるときには、悩みつつ、いろいろごちゃごちゃしながら、そのカオスな感じや矛盾をはらんでいかないと、リアルなものにはならないと思うんです。

岡田:そうだね。「言ってるだけじゃん」っていう感じにしたくないよね。言うだけは簡単なので。

卯城:卯城:タイトルの「Reborn」と「Art」の間に「-」があるじゃないですか。それが意味するのは、土地自体の「Reborn」だけではなくて、アートの「Reborn」でもあるのかもしれない。そう考えると、アートとして「Reborn」していくためにも、10年くらいかけて、もっとごちゃごちゃしていかないといけないんじゃないかっていう感じもあるよね。

大森:アーティストは、ただ作って提示するんじゃなくて、そこにあるものや人をちゃんと見て、表現したり、記録したりしていくべきだと思います。それを10年続けて、10年後と比べるのでもいいし。

-今回の関わりから、また生まれてくるものもありそうですね。

大森:それが正解……というか、正解はないのかもしれないけど、自分のイメージでは、そういうもののほうが参加したいなって思いますね。
街って、駅ができたら復興が進んだりするじゃないですか。女川も、駅ができたら一気に復興が進んだことを実感できたって、現地の人が言っていて。そういう存在になれればいいのかなって思います。

大森:私、『ap bank fes』とは別の日に、Chim↑Pomさんの作品の前で弾き語りがしたいな。

エリイ:靖子ちゃんに歌ってほしい!

卯城:いいよね。作品と向かい合って1対1でやってほしいな。

エリイ:私たち、子どもの頃に会っていたら、絶対に仲良かったと思う。子どものとき、不思議なところに行くのが好きだったでしょ? 私もそうなんだよね。二人いると、一人でいるよりも、ちょっと遠くまで行けたりするじゃん? そういう関係になってたと思う。

大森:たしかに、子どもの頃、近くにいたら楽しかったかも。でも、私、絶対に好きになっていると思うから……好きな人って怖いじゃないですか。だから、逆に距離を置いていたかもしれない(笑)。