ぐちゃぐちゃにジャンルを超えた展覧会がなくなっていたんだなぁって気づいたんです。(卯城)

—大森さんとChim↑Pomは、今年の夏の『Reborn-Art Festival』(以下、『RAF』)の出演者としても、名前を並べています。大森さんが芸術祭に参加されるのは珍しい機会だと思いますし、実はChim↑Pomも、日本の芸術祭に参加されるのは珍しいですよね。

エリイ:日本の芸術祭に参加するのって、初めてじゃない?

卯城:地方の芸術祭に呼ばれないんですよ。当たり前だけどね。

-行政主導のものに呼ばれにくいということですよね。そういう意味でも、『RAF』は尖がったアーティストが集まっている芸術祭だと思うんですけど、両者ともなぜ出演を決めたのか、話していただけますか?

エリイ:もともとを言うと、私は烏龍舎にいて、8年くらい前から、小林さん(小林武史。『RAF』の実行委員長であり、烏龍舎の社長)に「アートって、めっちゃいいんで」って吹き込んでたんですよ。それで、小林さんも最初はアートのことをあまり知らなかったけど、私を通してアートに触れ合ったことで、アートへの造詣が深まって、『RAF』につながっていったと思うんです。

卯城:「和多利さん(和多利浩一。『RAF』の制作委員であり、ワタリウム美術館代表)と一緒にやるのがいい」って言ったのも、エリイちゃんだったんじゃないの? 何年か前に、小林さんに「こういうことやろうと思っているんだけど」って、相談されたじゃん。

エリイ:小林さんは、『ひっくりかえる展』(2012年4〜7月に、ワタリウム美術館にて開催。Chim↑PomやJRらが参加した展示)を観に来てくれてたのもあって、「和多利さんとかどうですか?」って言ったような気がするけど……忘れちゃった。

卯城:それで、数年前から、「出てくれないか」ってずっと言われていたんだよね。

大森:ミュージシャンタイプのミュージシャンは、アーティストタイプのミュージシャンにすごい憧れがあるし、アーティストタイプのアーティストにはもっと憧れがあるんです。だから小林さんはエリイさんのこと、超好きだと思いますよ。

—大森さんは芸術祭で歌うことに対して、他のライブやフェスとは違うモチベーションがありますか?

大森:ミュージシャンとアートが関わるときって、たとえばPerfumeと真鍋(大度)さんみたいに、1つのプロジェクトとして「一緒に作る」っていうことのほうが多いわけじゃないですか。でも、そうではなくて、お互いが「これが完璧です」って思う作品や100%の表現を持って行って、初めてその空間で合わさるというのが、一番禍々しいと思っていて。それがめっちゃ楽しみで行きます。そういう場所って、少ないと思うし、そこでみんながどういう音楽を奏でるのかは、結構面白いんじゃないかと思いますね。

卯城:1999年に世田谷美術館でやっていた『時代の体温展』が、伝説としてあって。俺とか林(Chim↑Pomのメンバー)とか、そこにインスパイアされた子どもたちがアーティストになった例って多いんですよ。それは、BOREDOMS(バンド)のEYEさんとかが参加されていたりもして、ぐちゃぐちゃにジャンルを超えた展覧会だったんです。
それよりもっとソーシャルな話にはなるけど、小林さんの活動もAPバンクとか被災地支援とか芸術祭の主宰とか、垣根を越えた好奇心があるから、たとえば丸木美術館でのChim↑Pomの個展とかでは、インプロでライブしてもらった。
歌舞伎町のやつ(『また明日も観てくれるかな?』)も、『時代の体温展』と比較してくれた感想があって。音楽とアートを一緒にやることに関しては、うちらとしては割と当たり前というか、そんなに大変な話ではなかったし、ずっと昔から変わらずに思っていたからやったんだけど、確かに最近はそういうことがなくなっていたんだなぁって気づいたんです。

音を出すのはどの場所でも意味があるけど、石巻には、確かにその場にしかない磁場みたいなものがありました。(大森)

—『RAF』は石巻、東北という地で開催されるわけですが、「場所」がライブや作品に与えるものについて、どのように感じますか?

大森:去年のプレイベント(『Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016』)にも出させてもらったんですけど、「フェスだと思って来たら違った」っていう印象のミュージシャンが多かったんじゃないかな。
オファーをいただくときに、小林さんから「この場所で音を出すことに意味があるから」っていう熱い想いを伝えられて。音を出すのはどの場所でも意味があるから、とりあえず行かないとわかんないなって思ってたんですけど、行ったら、確かにその場にしかない磁場みたいなものがありました。

—「磁場」ですか?

大森:海の音が聴こえて、抜けがすごくよくて……でも、みんないろんな気持ちを抱えていて。ライブって、全部探り合わないといけないんですよね。

石巻っていう、すごくネガティブなことが起こった空間で、まったくネガティブなことを発さないわけにはいかないじゃないですか。でも、楽しませなきゃいけない人たちがいて、引かせちゃいけない人たちがいる。そのギリギリの声の出し方を探っていたら、出番が終ったという感じでした。

-楽しませなくちゃいけないし、忘れちゃいけないこともあるし、という、2つの感情が走っている感じというか。

大森:はい……もちろん、観客は楽しみに来ていると思うんですよ。でも、地元の人たちも多くて、その人たちのベーシックにはなにがあるんだろうって。それが、ただ「楽しかった」だけではなく、いい経験になったっていう意味での「楽しかった」時間、身のある時間だったなって思います。