現代アーティスト・Chim↑Pomと、シンガーソングライター・大森靖子の、異ジャンル対談が実現した。両者は、この夏開催される、アート・音楽・食の総合祭『Reborn-Art Festival』に出演することが決定している。

「音楽が好きな人と、アートが好きな人の間には、実は溝があるかもしれなくて……」。取材をスタートさせる前、筆者がぽろりと言ったその言葉に、両者はぴくりと反応をした。

表現ってなんだ? 芸術ってなんだ? なぜ人々はそれを欲するのか?——少し大きな問いではあるけれど、異ジャンルの対談だからこそ、普段は話さないような素直な言葉たちが、両者からこぼれ落ちたように思う。

 

私、大学でChim↑Pomさんを習ってましたよ。(大森)

-去年、Chim↑Pomが歌舞伎町で行った展覧会(『「また明日も観てくれるかな?」~So see you again tomorrow, too?~』)のイベントに大森さんが出演されていましたが、それまでも交流はあったんですか?

エリイ:初めてお会いしたのはあの日ですね。

卯城:高円寺にあるキタコレビル(Chim↑Pomのショップも入っている)に、「はやとちり」っていう、変な服をいっぱい作っている店があって。そこの店長のごっちゃん(後藤慶光)と(大森)靖子ちゃんがつながってるという話を聞いてたんです。俺は、3年くらい前から靖子ちゃんのことをめっちゃ面白いと思って掘っていて。

エリイ:ごっちゃんに、「異性として紹介してくれ」とか言ってたよね(笑)。

左から:エリイ、卯城竜太

卯城:ごっちゃんと、「紹介してよ」「お前には絶対紹介しねぇ」みたいなやり取りがあって(笑)。

大森:ははは。嬉しい(笑)。

卯城:それで、去年歌舞伎町でイベントをやることが決まったときに、ごっちゃんに「どうやったら、靖子ちゃん来てくれるかな?」って相談を真面目にして、正式にオファーをしました。

卯城竜太、エリイ、大森靖子、岡田将孝

-『また明日も観てくれるかな?』には、大森さん以外にも、小室哲哉さんや菊地成孔さんなど、音楽やパフォーマンスの方々が多数参加されていましたね。なぜあの展覧会には、アート以外の要素が必要だったのでしょう?

卯城:まず、『また明日も観てくれるかな?』は、取り壊しが決まってるビルでやって、最後にはビルが壊されちゃうし、展示していた作品も一緒に壊されるというコンセプトだったんです。
プロジェクト全体が作品的な性格だったので、アートピースやビルといった物質がなくなったあとも、記憶としては強烈に残っていたほうがいいなと思って。パフォーマンスを観たり、ライブを観に行ったりした体験って、記憶として強く残るから、そういうイベントをやりたいねって。それで「大森靖子さんがいい」というのは、割とうちらのなかで最初のほうから挙がってました。

Chim↑Pom(インタビュー記事:Chim↑Pomが熱弁する結成からの10年と「全壊する個展」の意義)

エリイ:「新宿」という点も大きかったよね。

卯城:そう。靖子ちゃんの“新宿”といい、相性がいい気がして。

大森:私、大学でChim↑Pomさんを習ってましたよ。

エリイ:え、マジで?

大森:ムサビ(武蔵野美術大学)の芸術文化学科だったんですけど、そのときからファンだったので、オファーをもらったときは嬉しかったです。あのときに展示されてた作品も全部観ましたし、その前から、何度もChim↑Pomさんの展示は観てました。

「芸術」としてカテゴリーされるなにかが一番ヤバいんだって、信じたいんですよね。(卯城)

—音楽とアートは分けて語られがちですが、大森さんは、同じ「表現」として両者に通じるものを感じますか?

大森:通じたいですね……通じたいですけど、やっぱり溝があるというか。私はどちらかと言えばアート寄りのミュージシャンだと思うんですけど、みんなそうだと思って音楽を始めたら、そうじゃなかった。ミュージシャンは、ルーティーンが多くて……結構、断絶があるというか。

卯城:ミュージシャンのなかにも、壁がある感じ?

大森:そうです、そうです。

—「ルーティーンが多い」というのは?

大森:なんて言うんだろう……「表現が好き」っていうのと、「音楽が楽しい」っていうのは、微妙に違うんです。「音楽を作ったり、ライブを作ったりするのが好き」っていうのと、「音楽を使って、オイ! オイ! って盛り上げるのが好き」とか、もしくは「CDを作るのが好き」というのは、全然違う作業なんですよ。

大森靖子

—大森さんは、どの部分が一番好きと言えますか?

大森:私はライブが好きで、それは、自分が死んだあとに残らなくていいし、忘れられてもよくて、ただ「今どうするか」ということが好きだから。ライブは、その場所との音の即時融合みたいだから一番楽しいんですよね。
ただ、これまでいろんなところでライブやってきたから、飢えているというか、どこでやっても体験してしまっていることが多くて。でも、歌舞伎町のあのビルは特別だったから、楽しかったんです。

卯城:俺は、音楽を挫折して、アートしかなくなっちゃった人なんです。だから、表現っていう上での価値観とか個の部分とか、わかりますよ。良質なポップって、アート心をくすぐるものがあるし。

—だから大森さんにシンパシーを感じる部分もあったと。

卯城:作ったものにどういう価値が生まれるかっていうのは、やっぱり作った人の生き方に関係するじゃないですか。音楽って、膨大な量が生まれて、消費もされていくなかで、靖子ちゃんは「自分の歌」にこだわって「自分の生き方」にマッチする音楽を作っている人だと思うんです。靖子ちゃんが生き方自体にこだわりを持っているのは、誰が聴いても、音からわかる。
それは、音楽だったり、アートだったり、漫画でもなんでも、そういう人たちってわかるんですよ。「この人やべぇな」って。そういう人から生まれるものの一部に、現代アートの業界でのカテゴライズとは若干異なりながらも、「芸術」としてカテゴリーされるなにかがあるんだと思う。そこが一番ヤバいんだって、信じたいんですよね。