今年の『 Reborn-Art Festival』本祭で生まれた小林武史と櫻井和寿からなるコンセプチュアルユニット、Reborn-Art Session(リボーンアート・セッション)。先に配信リリースされ話題となった「What is Art?」のMVフルヴァージョンがついにウェブ公開! それを記念して、この作品の音楽、ビデオ、ジャケットアートがどのようにして作られたのかを振り返る、題して” 「What is Art?」制作レポート”をお届けします。


 今年5月。芸術祭の段取りや音楽フェスのブッキングなどでスタッフが慌ただしく動き回っていたなか、小林武史はひとつのアイデアを思いつく。そのときのことを小林はこう振り返っている。

「去年(Reborn-Art Festival x ap bank fes 2016)はオープニングに(Bank Bandの)「to U」と石巻の伝統芸能のミックスしたものに、SUGIZOくんのような震災に深くコミットしてきたアーティストとのコラボレーションを加えることで、僕らのひとつの大きな意思表明のような表現になっていたと思います。それが今年、芸術祭も行われる”本祭”として何が必要なのかと考えたときに、やはり音楽側としてのアイコンというだけでなくてもっとアートを巻き込んだもの、しかもそれがきっとアグレッシヴな形で象徴になるような曲として必要だと思ったんです」

 その着想を元に、小林は即座にスタジオに入り楽曲のラフスケッチを制作する。それをもって小林はそのコンセプトを櫻井和寿に伝えたところ、ほどなくして櫻井から”言葉のデッサン”的な歌詞の断片が送られてきたという。

「それは一目見ただけで、こちらが考えていたことがきちんと伝わってたことがすぐにわかったし、櫻井くんがどう感じてその歌詞の断片を書いたかも伝わってきた。だからそこからのスピードはめちゃくちゃ速かったんですね」

 そのときの様子を、制作が行われたスタジオのエンジニア氏に訊いてみたところ、13時にスタジオ入りしたあと小林は櫻井からきた歌詞を並べ替えるなどの作業をしたのち、14時あたりから楽曲構成とメロディを作りはじめ、おおよそが完成したのは17時だったという。つまり実質の曲作りは約3時間というのだからたしかに驚異的なスピードなのだ。そのときの小林の”迷いのなさ”が窺えるエピソードだろう。

 そんなクリエイティヴな勢いで進んだ楽曲制作は、小林のディレクションの元でミュージックビデオの制作に向かうことになる。その制作エピソードを、監督の袴田晃司氏と撮影監督の中野幸英氏に話をうかがった。

▲MVに登場するアート作品/制作風景/景色など。(写真左上より時計回りに)Zakkubalan、山田遼志(アニメーション)、櫻井和寿、SIDE CORE、岩井優、万石浦、バリー・マッギー、パルコキノシタ。

ーーこのチームでの制作は初めてではないんですね?

中野 2004年にap bankとして最初の活動だったと思うんですが、東京と大阪で行われたBank Band「B.G.M」という食事付きのコンサートで3メートル幅の写真作品を12枚展示させてもらったのがスタートだったと思います。

袴田 中野さんはそのあともap bank Fund for Japanとして石巻で活動していたり、フェスのオフィシャル・フォトもずっとお願いしてきている仲で。彼以上に今回のコンセプトを咀嚼するスピートが速い人はいなかったと思います。

中野 昔から知っているぶん、今回も「芸術祭をやる」という話を聞いて、環境を生かすという芸術祭の発想であったり、artist power(apの語源)による活動ということでは、大変な苦労があるだろうけれど、コンセプトが明快で意義ぶかいな、と感じていました。

ーー今回の作品はいわゆるミュージックビデオ作品としては異色の構成になっていると思うのですが。

袴田 まず、壮大な曲タイトルだったので激しく身構えたのをよく覚えています(笑)。小林さんからビデオの構成要素として言われたのは歌唱・演奏シーンに加えて「石巻のアート作品」と「石巻・牡鹿半島の景色」でした。楽曲MVとしての機能を持たせながら、Reborn-Art Festivalのコンセプトムービーとしても機能させたいということでしたね。

ーー「アート作品と景色」とひとくちにいっても、その撮り方によって振れ幅は大きいわけですよね。

中野 これまでもこのチームで何度も撮影をさせてもらってますが、僕は現場では動画としては信じられないほどいつも自由に撮らせてもらっていて。なので、僕は以前からこのチームでは、観る側の想像力がかきたてられるような主観目線での撮影をずっと心がけてきています。今回はそのうえで、楽曲のテーマと総合祭のコンセプトが重なっていくなかで、誰のまなざしをどこに向けていくか、という主体的な責任が僕に求められたと思ってます。

ーーとはいえ、対象の多さ、広さは大変だったのでは?

袴田 そうなんです。通常のMVなら音楽そのものや演者側の想いと向き合って映像を作っていくことになるんですが、今回は向きあう対象がとても多くて正直そこは大変でした。構成要素は出揃ってるにしても、それをいかにまとめるのか、「What is Art?」という巨大なテーマと対峙できる映像にどうしたら近づけるのか本当に苦しみました。

ーー撮影順としてはリップ(歌唱)が先だったんですか?

中野 石巻での撮影直前に櫻井さんを撮らせてもらいました。白い大きな壁に四角い穴を空けて撮影しているんですが、このときの櫻井さんはこれまでにないくらいの厳しい目線をカメラに投げかけていました。そのことで僕としても櫻井さんのこの曲への姿勢をはっきり感じたうえで石巻に向かうことができてよかったです。

袴田 その直後、6月末から7月前半に中野さんを中心に4人で撮影合宿をしたんですが、そういう流れもあったのですごく気概に溢れたクリエイティブな撮影になりましたね。現地は現地で当然ながら作品を設置しているアーティストのみなさんのパッションがすごくて。もちろん彼らの作品もすごい。石巻の街や人のパワーもすごい。

中野 納期までの時間のなさもすごいし(笑)。

袴田 ええ、ふたたび激しく身構えたのをよく覚えてます(笑)。

ーー(笑)そんななか、現地の人たちとの撮影はどうでしたか?

中野 鮎川でたまたま入った食堂で、僕らが関係者だとわかると店主やお客さんがそれぞれアート展示についての提案を建設的に話してきてくれました。とても皆さん熱く一生懸命に話してくれて、この芸術祭に関わることの責任を感じるできごとでした。震災直後にボランティアを100人近く呼んでお花見を主催してくれていた現地の女性が、今回m芸術祭で作品設置場所を提供していて、その倉に置かれている作品を誇らしげに語ってくれたのがとても印象的でした。

ーーどこか背筋がのびるというか。

中野 そうですね。地元の人々の努力で新しくなったお店や牡蠣のいかだを撮るにしても、そこに意思や工夫を感じながら撮影を進めました。今の石巻や牡鹿半島がただの車窓として流れていくのではなくて、人のまなざしをもって楽曲の展開へと作り重ねることが出来たと考えています。また今回小林武史xWOWxDAISY BALLOON作品「D・E・A・U」の映像部分としても使用されることで、石巻で展示できるほど画の強度を持ったのだとすれば嬉しいです。

▲MVに登場するアート作品/制作風景/景色など。(写真左上より時計回りに)有馬かおる、浪田浜、小林武史、名和晃平、山田遼志(アニメーション)、金氏徹平、金氏徹平・荻浜小学校、青木陵子+伊藤存。

ーー特に印象的だったアーティストはいますか?

中野 みなさんそうなんですが、中でもコンタクトゴンゾさん、SIDE COREさん、青木陵子さん+伊藤存さんなどは、訪れるたびに作品の様相が変わっていくのを目の当たりにしてその創意にはしびれましたね。撮る側としては毎日状況が変わることは非常に撮りづらくもあったのですが(笑)。あとバリー・マッギーさんも印象的でした。彼は炎天下タフな集中力でペインティングをして、制作が終わると浜でサーフィンをして過ごすんですよ。サンフランシスコと牡鹿半島が繋がっているような彼らしい時間の持ち方なんだと思います。

ーー一方で、撮影が終わると今度は編集になるわけですが。

袴田 そのあと東京に戻って編集を始めるんですが、マウスを動かす手がなかなか進まない日が続きました。壮大なテーマと膨大な撮影データを前にして少し道に迷ってしまったんです(笑)

ーー一度大きく方向転換をされたとも聞いていますが?

袴田 オフライン第1号は現在の完成系とはまったく異なりますね。そのときはどこかドキュメンタリー的なテイストになってしまっていて。小林さんから再編集を求められたのはもちろんですが、中野さんからもその上をいくダメ出しをされたのが完成へのスピードを加速させました。

中野 そうでしたね(笑)。

袴田 それほど中野さんは熱い気持ちで石巻/牡鹿を駆け回ってくれていたんです。彼といっしょに編集指針を整理することができてそこからうまく進むようになりました。それは、「アート」を共通項にしたときの、”深層にあるもの”を編集できているか、みせられているかということでした。その”深層”の一端をこの映像からもし感じてもらえたなら幸いです。とても壮大なテーマでしたが、自分としては結果ここしかない!といえるバランスの、誇らしい映像になったと自負しています。

ーー実景とともに挿入されるアニメーションも印象的でしたね。

袴田 悩んだ末に行き着いたのがあのキャラクターでした。ひとつの映像として機能させるためにひとつシンボリックなもの、物語の語り部になるキャラクターが必要だと思って。とても運がよかったのは山田遼志くんという若手アニメーションディレクターと出会ったことでした。 キャラクターの顔に「What is Art?」と描かれるのは山田くんのアイデアなんですが、あのラフスケッチを見たときに「きた!」と思いました。彼の哲学的な世界観がうまく曲のなかで生きてくれたと思います。あの犬人間はなんなのか、あの青い球はなんなのか、いろいろ観た人に発想してもらえたらうれしいです。

ーーまだまだ芸術祭は続いているわけですが、ぜひこのビデオを観てから現地に行ってほしいですよね。

中野 小林さんは震災直後の石巻を「音楽の一時停止ボタンが押されたように静かだった」と表現していました。多くのものが失われた土地で、世界的なアーティストたちが考え、悩みながら環境と対峙し自由な発想で作品を制作しています。スタッフも初めての芸術祭で大きな壁に幾度もあたり回り道もしている。それでも地元の人たちと向き合いアドバイスも受けて改善するための努力を日々続けています。石巻や牡鹿半島を回って作品を見ることで彼らの強い想像力と工夫が、勇気や知恵の結晶のように伝わっていくかもしれない、と思ってます。

袴田 このビデオのなかのアート作品の多くは会期前の未完成なものがほとんどです。もちろん映像のなかの作品もとても素敵だと思っていますが、ぜひ現地でも観てもらえればまた新しい発見があるかもしれません。さらに帰ってきてこのビデオを観てもらえればそこにまた発見があるかもしれない。多くの人にとって「What is Art?」は永遠に続く問いかけだと思いますので、みなさんそれぞれが「What is Art?」 を感じてもらえればと思っています。

 

▲この楽曲の配信ジャケットになっている画像も元はこどもたちによるアート作品だ。これは、石巻のこどもたちとアート作品をつくるワークショップの中でこどもたちが牡鹿半島・牡鹿ビレッジの貝殻ビーチで拾った貝殻や漂流物を持ち寄って魚の形にしあげたもので、よくみるとたしかに貝殻などにまじって飲料容器のゴミや漁に使われるロープのようなものも見える。自然と人工物の組み合わせでできた、まさに「What is Art?」な作品。

 

袴田晃司 / 映像ディレクター
1978年 静岡県生まれ。早稲田大学卒業。 2002年より音楽映像を中心に、ステージ演出映像、Music Videoなどのプロデュース、ディレクションに携わる。 2014年 bloomotion 設立。モーショングラフィックスやCGを交えた横断的なデザインセンスとディレクションを礎に、企業広告、イベント演出映像 など、フィールドを拡張中。

 

中野幸英 / フォトグラファー
1978年 神奈川県出身。作品制作とコマーシャル撮影で活動。 2006年より ap bank fes オフィシャルフォトグラファー。 2010年 写真集シリーズ「写真会議録BRAINSTORMING 」に参加 。2014年「東北コットンプロジェクト 綿と東北とわたしたちと」共著(タバブックス)、 2015年 写真絵本「おのくんとおさんぽ」作 ソーシャルイマジン刊 。主な展示に 2003年 BankBand 「B.G.M」会場展示 2016年 日本橋髙島屋1Fにて「give and take」など。

 

山田遼志 / Animation Artist
1987年生まれ。東京在住。 2013年多摩美術大学大学院アニメーション専攻修了。2016年株式会社ガレージフィルム退社後フリー。現代社会の抱える不安や恐怖などをモチーフとし、狂気 的な作風で制作を続ける。世界最大のアニメーション映画祭である、アヌシー国際アニメーション映画祭はじめとし、国内外で数多く上映されている。