自然と人間の共生を提示する、牡鹿半島中部エリア
「牡鹿半島中部エリア」には、Chim↑Pom、名和晃平ら人気アーティストの作品が広範に点在しており、移動はリボーンアート・バス推奨だ。時間はそれなりにかかるけれど、自然と人間の共生の可能性を提示する作品は、絶好のスポットになっている。
名もない貝殻の浜に新設された地産地消のレストラン「Reborn-Art DINING」の隣には、名和の作った全長6メートルの鹿『White Deer(Oshika)』がスペクタクルにそびえる。そして神秘的な洞穴には、宮永愛子『海は森から生まれる』、さわひらき『燈話』があなたの来訪を静かに待っている。
草間彌生の作品も展示されている、牡鹿半島先端・鮎川エリア
ちょっと駆け足気味だが、もっとも遠い「牡鹿半島先端・鮎川エリア」へ移ろう。鮎川エリア東部の「のり浜」には、ストリートアートの世界で人気のバリー・マッギーと、ユーモアに富んだアイデアで物事や場所の見え方を変える島袋道浩の作品がある。
長い坂を下って(スニーカーやトレッキングシューズ推奨)、地元の隠れたサーフスポットでもある浜に降りると、何百本もの流木や漂着物が直立した不思議な風景が広がっている。島袋の『起こす』は、人々と一緒にたくさんのものを「起こしてみる」という作品だ。かつて彼は、阪神大震災直後の1995年3月に『人間性回復のチャンス』という看板を作品として神戸市内に立てたことがある。それは大きな災害、大勢の人の死につきまとう「終わり」のイメージを「始まり」に転化する試みだった。
今回の、漂着物を起こすという今回のアクションもまた、この意識に連なるものだろう。小さくてもよいので、この美しい砂浜に流木を立ててみよう。そして、寄せては返す波に目と耳を向けてみよう。
作品から汲み取れる、参加アーティストに共通する意志・姿勢とは
今回紹介した作品の他にも、『Reborn-Art Festival』には数多くの作品があり、そこには、共通するある意志を見てとることができる。「石巻市街地中心エリア」の紹介で述べたように、これらの作品の体験が、アートを楽しんだり理解することに結びつくだけではなく、石巻という土地そのものへと意識を導いていく感覚があるのだ。
人工の氷室を地下に埋め、遺族の涙を冷凍保存するChim↑Pomの『ひとかけら』は、かなり直接的でエモーショナルなアプローチを取っているにもかかわらず、展示場所はとてもわかりづらい場所にある。多くのアートイベントではアイコン的な建造物が立てられる傾向が見られるが、今回のChim↑Pomはもともとそこにあった景色を極力「破壊」しないような設えを選んでいる(もっとも、巨大な冷凍庫特有の人工的な匂いが強調される空間には、また別の目論見があると考えるべきだろう)。
これは、カオス*ラウンジが死者や幽霊のための空間を成人向け映画館に仮設したこととも通じるだろう。じつはこの映画館は、同性愛者の出会いの場としても有名だった場所で、震災以前はもちろん、震災からわずか3か月で再開した後も、そういった人たちのコミュニティーとして機能していたのだそうだ。
時代の大きな転換点を迎えたとき、社会はしばしばマイノリティーが築いてきたものを無慈悲に切り捨ててしまう。そうやって切り捨てられ、失われたコミュニティーが恢復するチャンスはほとんどの場合、ゼロだ。『Reborn-Art Festival』が冠する「Reborn」(復活・再生・恢復)が、見栄えのいいアクションとして形骸化するのか、あるいはあらゆる人々が豊かな人間性を取り戻す本当の契機となるのか。アーティストたちは、それをじっと見つめているのだと思う。