Reborn-Art Festival 2017で「LOCAL」が導くツアー「Reborn-Art Walk」。
“それが一つの芸術作品であるような、牡鹿半島の旅”とは、いったいどんなものになるのでしょうか。
今回はこのツアーのナビゲーターを務める成瀬さんとともに、プログラムの講師をつとめる舞踏家の向雲太郎さんと、空間インスタレーションで参加してくれる美術家の大崎晴地さんにお話を伺いました。

 

身体の内側に目を向けて、

身体の外側の感覚を研ぎ澄ます

——まず、成瀬さんに質問です。今回、向さんと大崎さんに参加して頂くことになったきっかけは?

成瀬 前回、河本英夫先生のお話にもあったように身体的な部分から「自分をリセット」できるようなアプローチをしたいというのがまず前提にあったんですね(詳しくはvol.1をご覧ください)。そこでまず、河本先生が以前からご存知で、「人間の身体、心のリハビリテーション」などをテーマにした作品製作や活動をされている大崎さんをご紹介頂いたんです。あともうひとつ、河本先生が「今回のツアーには暗黒舞踏が必要だ」とおっしゃっていたんです。身体から内発するエネルギーみたいなものとか、身体から湧き上がってくる情動性みたいなもの、そこから身体表現を立ち上げる暗黒舞踏を通して、身体と世界との関わりをあらためて意識することが自分をリセットすることにつながるのではないかと。そこでどなたか暗黒舞踏の系統のダンサーにきてほしいなということになりまして……。

向 メキシコつながりなんですよね。

成瀬 はい。僕の知り合いにメキシコ人と日本人の舞踏家夫婦がいて、メキシコに呼んでもらって一緒にダンス公演をしたことがあったんです。その後、そのメキシコ人の旦那さんは山形にきて山伏修行に入って……という経緯があって。彼らならこのツアーにこめた「生まれ変わる」の意図が通じるにちがいない、とたずねてみたら向さんを紹介してくれたんです。僕の前年にメキシコに招待されていたのが、向さんでした。

 メキシコと日本というのは2014年が交易400年だったんですね。伊達政宗の時代に、支倉常長率いる慶長遣欧使節がメキシコに着いたのが1614年だったという歴史があって。そこで僕がその交易400年記念のときにメキシコに招待されて「支倉常長」を踊ったんです。

−−「支倉常長」を?

 舞踏には“自分の身体をメディウム(メディア)にする”、僕なりにいいかえると“憑依”するというものがあって、その時は支倉常長の霊を自分に宿して舞台に立つということをやったんです。その慶長遣欧使節団というのは、石巻市から出港していったという歴史があるんですね。そんなことで、今回また石巻で行われるReborn-Art Festivalに、メキシコを通じて声をかけてもらうというところに、なんだか不思議な縁を感じたんです。なにかに選ばれて呼んでもらえたんじゃないかなと。

成瀬 本当にそうですよね。僕もそこまでは知らずに声をかけさせて頂いたのでそういう縁があったことに驚きました。今回、向さんには2日間にわたるツアーの最初と、真ん中、そして最後に、身体にまつわるワークショップをして頂くことになっています。

--実際にはどんなワークショップになるのでしょうか?

 今回は2日間のツアーで、初日の立ち上げと、途中の短いもの、あとは2日目の最後に統括的なワークショップをやりたいと思っています。まず初日は、自分の身体と頭をからっぽにしていくというリセット作業をします。身体を寝かせて目をつぶって、呼吸をつかって自分の身体を感じてもらう、身体の中を探検してもらうようなことをするんですね。

成瀬 先日、向さんに石巻に下見にきて頂いたときに、そのワークショップを体験させてもらったんですけど、なんていうか、すごく気持ちよかったです。CTスキャンをするようなイメージで、頭のてっぺんから足の先まで自分の呼吸を通してみたり。そうして目をつぶっていると、段々と小川の音や小鳥の声など、それまで聴こえていなかった音が聴こえてくるんです。


 不思議なもので自分の身体のなかに意識をもっていくと、身体の外側というものも普段より感じるようになってくるんですね。身体の内側に目を向けて、身体の外側の感覚を研ぎ澄ますということを体験してもらうことで、その後のツアーのプログラムの感じ方が変わるといいなと。
2日目の最後のワークショップはみんなで一体感を感じられるような、共有してきたものをつかえるようなものにしたいと思っています。人間のDNAには大昔の原始の記憶というものがあるのですが、普段は意識の底に追いやられてしまってるんです。そういう世界へと入っていくというエクセサイズがあるんですが……。普段こうして普通にしているときに事件が起きると……、ハッッ!!!(向さんが突然大声を出してパンッと手を叩く)。

全員 ……びっくりした!!!(笑)

 (笑)。そう、こうやって突然の出来事が起きると一瞬頭が真っ白になりますよね? そういう事件が起きた瞬間というのは、自分の意識の底の世界とか、裏の世界とか、そういうところにいける「入り口」なんだと私の師匠、舞踏家の麿赤兒が言っています。そういう入り口を自分で設定して、そこから違う世界に入っていき、踊りへと持っていけるといいかなと。そして古代から踊りというのは祈りにつながるものなので、最終的にはみんなでわっと祈りに向かっていくような感じにしたいと思ってます。

成瀬 最初の「自分をリセットする」というエクササイズはパーソナルな、自分と向き合っていくものだと思いますが、それが段々、周りの人と交差していくような感じになっていくという感じですね。それぞれのワークショップで全然違う経験ができるんじゃないかと思います。

 

機能化する以前の感覚

海底と山とのありえない出会い

大崎 僕はこれまで障害のある家をつくったり(※「《障害の家》プロジェクト」:2015年に大崎さんが立ち上げたプロジェクト。障害のある人が健常者の社会に合わせるかたちとなっている「バリアフリー」の現状に対して問題を提起し、「障害」や「バリア」のある生活のほうが健常者よりも豊かで多様であることを検証する活動などを行っている)、バリアのある体験をしてもらうというような作品を作ってきました。同時に、身体のリハビリテーションや再生ということをずっとテーマにし続けていたのですが、今回、この石巻でどんなことができるかなと考えて……。そこで事前に成瀬さんと河本先生と一緒に牡鹿半島に行ったのですが、とにかく漁師の甲谷さんとの体験が僕には大変な出来事でした。

——今回の「海のプログラム」で刺し網漁体験へ案内してくれる漁師の方ですね。

成瀬 刺し網漁というのは何十メートルという深い海底に網を張る漁なんですが、そんな海底なんてもちろん見えないしどうなってるかわからないんですよね。でも甲谷さんたちは、浜から見た波の様子や、潮の流れなど、自分たちの経験と感覚とで狙いをつけられるんです。河本先生が甲谷さんに「(魚がたくさんとれる工夫を)どうやってるんですか?」と訊いたら、ひとこと、「探究心だ」とおっしゃったんです。説明したいことはたくさんあったんだと思うのですが、でも、そのひとことに尽きるんでしょうね。

大崎 そうした甲谷さんの経験は僕からすると“狂気”に触れたようなもので、漁師さんの海底へのダイレクトな知覚、そういうところに“感覚の資源”というようなものがあるんじゃないかと思ったんです。
展示する作品の場所は荻浜小学校というところで、山と海の間にある小学校なんですが、あらかじめ人間の耳には聴こえない海底の音を拾って、それを小学校の屋上に配置し、物自体を振動させる素材として使うんです。波の音は海底の音にも通じていて、普段は非可聴域(実際に耳で聞き取ることのできない音)の振動なんですね。地震が来る前、魚が一匹もいなくなったという話を聞きました。そうした海底を山と同じ高さに持ってくることで、海底と山とのありえない出会いを作り、そこに新しい自然を感じとれる場をつくります。今回、陸と海のあいだの境界について考えていて、その境界の変動という出来事につりあわせるにはどうすればいいのかと。山からくる風と海底の振動といった両義的な場を散歩する、石庭のようなインスタレーションを立ち上がらせたいと考えています。

成瀬 この“振動を感じ取る”というのは、私達人間は本来できることなんだけれど、騒音に溢れた都会に暮らしたりしているうちに鈍ってくるものらしいんですね。そういう本来もっているものが呼び覚まさせるような感覚も、大崎さんの作品によって体験できるのではないかと思います。

大崎 成瀬さんが以前「胎児がはじめに聴く音」の話をされていて。胎児が母親の胎内で始めに聴く音というのは、耳が形成される以前に、心臓の鼓動や外界からの振動で感じ取ったものじゃないかと言ってたんですけど。音を耳じゃないところから感じ取るという、そういう、機能化する以前の感覚が作られる場を出現させられるといいなと思っています。そういう意味では、向さんがおっしゃっていた自分の内側に向き合うことで外側への感覚も研ぎ澄まされるということと通じるところがあるかなと。

*大崎晴地による空間インスタレーションのスケッチ

成瀬 お二人の話を聴くだけでも、かなり濃い内容ですよね。向さんの身体ワークショップも大崎さんの空間インスタレーションも、体験することで自分がリセットされるんだけど、残るものは残っていくという、そういう体験になるのかなと思います。言葉にすると難しそうですが、どちらもアクセスは簡単なんです。身体ワークショップは気持ちよかったり楽しかったりするものですし、大崎さんのインスタレーションもアクションとしては床の上を歩くということだけ。ただそこから感じ取れるものはとてもパーソナルなものになるという。僕もナビゲーターではありますが、このツアーを通して自分が変わっていくのではないかと思っています。本当に楽しみです。

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