この夏、牡鹿半島で開催される、「LOCAL」が導くツアー「Reborn-Art Walk」。
そもそもReborn-Art Festivalにおける「LOCAL」とは?
今回はReborn-Art Festivalの制作委員である中沢新一と、このプロジェクトを進めている成瀬正憲さんのふたりに、このプロジェクトが生まれた背景、そして目指すものについて語っていただきました。
 

土の中、根っこの部分に

フォーカスするのが「LOCAL」

--そもそも、この「LOCAL」というプロジェクトは、中沢さんがReborn-Art Festivalに成瀬さんを誘ったところから始まるのですが、その意図や経緯を教えていただけますか?

中沢 いま、芸術祭を地方でやることの意義が本当に問われていると思うんです。自治体や企業と組んでお祭りのようにやる方式が広がっていますけど、ap bankが石巻でやるReborn-Art Festivalというのはそういうのとちょっと違うのではないか、ということを僕は考えていたんですね。ただ一時の賑やかしで、観光客をたくさん呼ぶだけでは、その土地の再生や豊かさにはつながらないのではないか。本当に地域が再生するためには、土壌が豊かになってそこに植物が根付いて育っていくようなことをする必要があるだろう、と。僕と小林(武史)さんはそういう気持ちを持ってこのReborn-Art Festivalを立ち上げて、ここまでやってきた。芽を育ててきたんですね。そこで成瀬くんに「ここからそれをもっと大きい植物にしてもらいたい」とお願いをしたんです。

成瀬 今回、このReborn-Art Festivalの話を頂いたときに、最初に中沢さんに言われた言葉が印象に残っていて。地域でこういう活動をするときに「どんなことをやるか」「何を建てるか」という目に見える部分ばかりに目を向けられがちだけど、大切なのは“土の中”だと。それは人と人のつながりであったり、社会資本や自然資本のような、根本のところだと。Reborn-Art Festivalではそういう部分をちゃんと考えなくてはいけないというお話をされて、僕もすごく共感したんです。

中沢 成瀬くんは僕が中央大学で教えていたときの学生さんで、その頃から成瀬くんの“自分の人生のデザインの仕方”というのをみて、僕と共鳴しあうところがあるなと感じていたし、山形県で活動をしているから東北の仲間を集めてこの東北のお祭りを育てていってもらえるんじゃないかなと。そういう人に丸投げしちゃって(笑)、なにが生まれてくるのかを見たいと思ったんです。

成瀬 土の中のものを上のほうに展開してくる動きがReborn-Art Festivalで、「アート」「音楽」「食」がそこに咲く花だとしたら、根っこにフォーカスするのが「LOCAL」、そういえるのではないかなと思いました。生態系には分解者が必要で、たとえば森だとそれはキノコなんですね。枯れた木は地面に倒れますが、それを森の土に還す役割を担っているのが、分解者であるキノコの菌なんです。その、目に見えない働きがあるからこそ、森は森としてあり続けることができる。僕は山伏の修行や日知舎という活動をしていますが、それは人間界の分解者だと思ってやっているところがあります。山伏の修行では山中他界観といって、“他界=あの世”である山に入るという考えがあるのですが、そういう日常的な生活空間の外と関わっているということで、人間界における“目に見えない土のなかの分解者”のような役割をしているのではないかと。だから今回、中沢さんからこのReborn-Art Festivalの話をもらったときには、自分がやっていることをやればいいのかなという気がしたんです。
 

「Reborn-Art」=「生きる術」が

育っていく土壌づくりを

中沢 東日本大震災が起きたあと、日本人の大半は、これはえらいことになったと思って、自然のことをいろいろ考えたわけです。自然と敵対するのではなく受け入れていくにはどうしたらいいかとか、人間の生き方、暮らし方を変えていくにはどうしたらいいかとか。ところが一方では全然違う方向に向かう人達がいて「国土強靭化をしましょう」とか言うわけです。なにかというと、それは防波堤の建築と道路整備でした。

成瀬 東北なり、被災地なりを、土木工事で強靭化しましょうということですね。

中沢 そう。でもじゃあ、巨大防波堤を作ってそのなかにビルを建てる再開発をすれば、それで石巻という町が再生するのか、それがRebornなのかといったらそうじゃないのではないかと僕は思ったんですね。
町を生まれ変わらせるには、再開発と、リフォームという方法があります。更地にして新しいものを建てるか、古いものを回収してやりなおすか。でも、石巻で僕らが直面した問題は、そのどちらでもなかった。町の半分以上が流されてしまったわけですからね。
人間が更地にしたくてしたわけではない、でもリフォームしようにも建物はいくつかしか残っていない。そういう状況で、第三の道を探らなければいけない。
再開発でもない、単なるリフォームもできないとなると、まずは地盤を作ることなんじゃないかと。その土地の技法やその土地に根ざしたものを、それは建築物だけの話じゃなく文化的なことも含めて、その土地が望んでいるものを作っていかなければいけないだろうと。その第一歩が今度のReborn-Art Festivalです。成瀬くんには、そういう、土地に根ざした建物なり、文化的なお祭りなり、集団なり、そういう「Reborn-Art」=「生きる術」というものが育つ土壌を作ってもらいたいと思いました。それをReborn-Art Festivalの「LOCAL」の取り組みとして、なにができるかを考えてもらったんです。

成瀬 僕はもともと「聞き書き」といって、“その土地で暮らしている人々の話”を聞いて文章にまとめるという活動をしてきたので、石巻・牡鹿半島でもそこから始めようと。土地に培われた「人が生きる術」を掘り起こし、それらを集め、学び、共有し、いまの「Reborn-Art」を形づくることが、僕にできることなのではないかと思ったんです。(RAFオフィシャルサイト、「石巻かほく」でも連載中)
牡鹿半島の漁師のおじいちゃんの話とかすごいんですよ。波の水しぶきの立ち方とか、漁の網への泥の付き具合とか、そういう自然からの小さなシグナルを掴んで、魚がたくさんとれる場所を明確にとらえたり。目に見えないものを見る術(すべ)を持っているんです。

中沢 それこそが「Reborn-Art」「生きる術」ですよ。

成瀬 はい。本当に、漁というのは総合芸術だなと思いました。そこで、どうやったらその海の深さを感じ取れるんだろう、どうしたらその生きる術を感じられるんだろうということを、訪れた人にも体験してもらおうと企画したのが「Reborn-Art Walk」ツアーなんです。
蜂や蜘蛛ってすごくきれいな巣をつくるじゃないですか。誰に教えてもらうわけでもなく、設計図も持たず、本能的に。でも人間は設計してしまうんですね。人間にとって蜂の巣のようなものはないのかなと。人間が、蜂が巣をつくるように生み出せるもの、というところから、復興を考えてみたらどうだろうかというところにいきついた。それは、中沢さんのいわれる「野生」なのかもしれませんが、それが生まれてくるような体験を、このReborn-Art Festivalの「LOCAL」で作りたいと思ったんです。

中沢 だから、ある意味冴えないプロジェクトだよね(笑)。派手なお祭りや大きなビルを建てるような華やかさがありません。でも、その土地が望んでいるものってちゃんとあるんですよ。そういうものを探って、土地の思いにちゃんと合致させて、育てていく。そういうReborn-Art Festivalにしなくてはならない。
あとね、こういう取り組みがうまくいくかどうかは、最後は中心となる人物の魅力があるかどうかも大きいですから(笑)。

成瀬 ええ! 僕がナビゲーターなんですけど、大丈夫ですかね……(笑)。

中沢 はは(笑)。そこも、成瀬くんだから大丈夫だと僕は思ってます。

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